上伊那地域にみる昭和初期と令和の終活・介護の違い

長野県上伊那地域(伊那市、駒ヶ根市、辰野町、箕輪町、飯島町、南箕輪村、中川村、宮田村の8市町村)では、かつて大家族や地域共同体による看取り・葬送が自然なかたちとして行われていました。しかし現代、令和の時代においては、高齢化の進行、核家族化、価値観の多様化などを背景に、終活や介護の在り方が大きく変化しています。
本記事では、昭和初期における上伊那地域の風習・習俗・制度のない中での自然な終末期の迎え方と、令和時代における現代的で制度に支えられた終活や介護との違いを、できる限り地域性に根差した視点で掘り下げていきます。また、各自治体の独自性ある取り組みや風土、文化についてもご紹介し、上伊那における過去と現在の「人生の終わり方」を比較します。
目次
昭和初期と令和の終活・介護比較一覧
| 項目 | 昭和初期 | 令和 |
|---|---|---|
| 介護の担い手 | 家族(主に嫁や娘)、地域の相互扶助 | 介護保険制度に基づく訪問介護、施設介護、ケアマネージャー等による支援 |
| 看取りの場所 | 自宅(座敷に布団を敷いて看取る) | 病院、介護施設、自宅(在宅看取りを選ぶ人も増加) |
| 葬儀の形態 | 自宅葬、隣組の協力による盛大な葬儀 | 家族葬、直葬、火葬式など簡素化・多様化が進行 |
| 地域の関与 | 隣組が葬儀の準備・受付・炊き出しなど全面的に支援 | 地域の関与は縮小。葬儀社や専門業者が対応することが一般的 |
| 納骨・墓のあり方 | 家墓(代々継承)。墓守は長男の役割 | 墓じまい、永代供養、樹木葬、合同墓、散骨など多様な選択肢 |
| 戒名や供養 | 戒名が必須。法事・年忌法要も重視 | 無宗教葬や俗名での供養も。法事を行わない家も増加 |
| 終活の意識 | ほとんどなし(遺族任せ) | エンディングノート、事前相談、遺言書など自分で準備する人が増加 |
昭和初期の上伊那地域における看取りと葬送
昭和初期の上伊那地域では、高齢者の介護や看取りは三世代同居の中で家族が行い、近所の人々も助け合いながら自然と支援する体制が存在していました。また、葬儀は自宅葬が一般的で、隣組や自治会など地域社会全体が葬送を支えました。火葬と土葬が併存し、菩提寺との関係を大切にする戒名文化も強く、法要や墓参りを通じて長く故人とつながっていました。
令和時代の上伊那地域における終活・介護の現状
1. 地域包括ケアと介護保険サービスの発展
令和の現代では、介護保険制度によって要介護認定を受けた高齢者が公的サービスを受けられるようになっています。訪問介護、訪問看護、デイサービス、ショートステイ、グループホーム、特別養護老人ホームなど、多様なサービスが整備されました。伊那市や駒ヶ根市などでは地域包括支援センターを拠点とし、高齢者の総合相談、介護予防プランの作成、成年後見制度の活用支援なども行っています。
上伊那地域の多くの自治体が、在宅療養や在宅看取りの希望を叶えるため、医療と介護の連携を推進する「地域包括ケアシステム」の構築に注力しています。そして、ACP(人生会議)への取り組みや、医療・福祉・行政の連携会議を通じて、本人の意思に寄り添った支援体制の充実が進行中です。 (厚生労働省:地域包括ケアシステム)
2. 終活への関心と支援制度の充実
近年は、終活に対する意識の高まりから、エンディングノートの活用、事前相談、死後事務委任契約、遺言書の作成などを自ら行う高齢者が増えています。駒ヶ根市では地域包括支援センターが主催する出張講座で、エンディングノートの書き方や財産管理、身元保証についての講演を行っています。また、民間団体と連携して「終活総合窓口」や「終活相談会」が実施される事例も出てきています。
高齢者が身寄りのない場合や子どもに負担をかけたくない場合には、地域での「身元保証サービス」や「死後事務支援」などの仕組みが注目されており、上伊那の複数の市町村でこのような支援が導入されています。
3. 葬送と供養のかたちの変化
昭和期に一般的だった自宅葬や地域参加型の盛大な葬儀は、今ではほとんど見られなくなり、火葬場併設のセレモニーホールや会館で家族だけで執り行う「家族葬」「直葬」「一日葬」が主流となっています。
伊那市が整備した「仙望の丘」では、永代供養墓に多くの申込があり、高齢化・少子化が進む中での「墓守の不安」を軽減する選択肢として支持されています。箕輪町や南箕輪村では、民間霊園の樹木葬区画や合同墓利用者も年々増加しており、「自然に還る」スタイルを希望する人も増えています。(伊那市:仙望の丘)
法事の回数や戒名の有無も家庭によって多様化しており、仏教離れや宗教儀礼の簡素化が見られる一方で、伝統的な儀礼を重んじる家庭もなお存在しています。選択肢が広がった今、本人の意志と家族の価値観が対話のなかで調整されているのです。
上伊那地域8市町村の比較表
| 市町村名 | 高齢者支援施策の特徴 | 終活・葬送に関する取り組み | 備考 |
| 伊那市 | 包括支援センター、ACP推進、「仙望の丘」整備 | 合葬墓の生前予約制度、人生会議の普及啓発 | 上伊那最大の市。高齢者数も多い |
| 駒ヶ根市 | 地域包括ケアと終活講座、見守り強化 | 終活相談会、身元保証、死後事務支援 | 民間終活支援企業との連携あり |
| 辰野町 | 地域包括ケア講演会、見守り体制づくり | 昔ながらの風習も残る、伝統文化重視 | 山間部に葬儀文化が残る地域もあり |
| 箕輪町 | ケア協議会設置、緊急通報装置 | 合同墓相談窓口あり | 葬儀支援に隣組の名残もあり |
| 飯島町 | 直会文化、家族葬が中心 | 墓じまい支援、菩提寺との協力体制 | 地域文化と現代ニーズの共存を模索 |
| 南箕輪村 | 認知症カフェ、若者も多く活力あり | 専門家連携の終活セミナー実施 | 人口増加傾向。若年層と高齢層の共存 |
| 中川村 | 夜伽・草履文化が一部残存 | 地域見守り・自治会主導の支援 | 小規模自治体だが絆は強い |
| 宮田村 | 「みやだの暮らしプラン」策定 | 隣組文化が残る、地域密着の支援体制 | 昔ながらの温かみある風土 |
おわりに
上伊那地域の「人生の終わり方」は、時代とともに大きく変化してきました。かつての昭和初期には、家族と地域が一体となり、自然な形で看取り・葬送を行っていた文化がありました。それに対して現代では、制度やサービスに支えられつつ、一人ひとりが「自分らしい終わり方」を選べる時代へと進化しています。
しかし、どの時代にも共通するのは「故人を大切に想い、悔いなく見送る」という人の気持ちです。その想いを現代の仕組みでどう実現するかが、これからの地域づくりに求められる視点となるでしょう。
昭和から令和へ、上伊那の終活と介護を振り返ることで、今を生きる私たちがどんな未来を選び、どのように人生の幕を閉じたいかを考えるきっかけとなれば幸いです。
🔗 参考資料リンク一覧
| 介護保険制度 | 厚生労働省|介護保険制度について |
| 人生会議(ACP) | 厚生労働省|ACP(人生会議)の推進 |
| 終活支援(伊那市社協) | 伊那市社会福祉協議会|くらしの安心サービス |
| 終活・成年後見セミナー | 南箕輪村社協|終活・成年後見セミナー |
| 永代供養・合葬墓 | 伊那市|合葬墓「仙望の丘」 |
| 高齢者福祉(伊那市) | 伊那市|高齢者福祉・介護サービス |
| 地域医療構想(上伊那) | 長野県|上伊那地域医療構想 |


